光合成細菌 RAP99 の腸内細菌系試験(in vivo)
腸内細菌系試験(in vivo)
マウスの腸内細菌叢に及ぼす影響評価試験
目的
光合成細菌RAP99菌体を摂取したマウスの腸内細菌叢に及ぼす影響を確認するために行なった。
試料と方法
(1)使用動物
マウスは実験開始時6週齢のC57BL/6J雄性マウスを飼育した。マウス納入後2日間はCE-2固形飼料を、3日後から群分け日(7日後)まではAIN-93M精製飼料を給餌した。群分けは、6匹/群+予備1匹/群のように実施した。
(2)光合成細菌RAP99菌体の経口投与及び糞の採取
マウスを群分け後3日目に糞を採取した後、光合成細菌RAP99菌体試料を14日間連続で経口投与した。投与7日目に2回目の糞を採取。
(3)試料溶液の調整及び投与
光合成細菌RAP99菌体は100mgを秤量して15mLチューブに移し、蒸留水を加えて10mLとして、ボルテックスミキサーにて攪拌し、懸濁液を調製した。さらに1mLに蒸留水9.0mLを加えた懸濁液を調製した。懸濁に用いた蒸留水は陰性対照として用いた。作成した試料溶液はゾンデを用いて、10mL/kgでマウスに強制経口投与した。
(4)試験区
群分けしたマウスの各群の試験区を表1に示す。
表1 試験区
結果
(1)T-RFLP解析
本試験で用いたT-RFLP(Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism; 末端標識制限酵素断片多型分析)法は微生物群集構造を解析する手法の一つである。作業の流れは下記の通りである。
a) 試料中の微生物群集から全DNAを抽出し、末端蛍光標識したプライマーセットで鋳型DNAをPCR増幅した後に、制限酵素を用いてDNAを断片化する。
b)断片化したDNAを、DNAシーケンサーを用いて電気泳動し、蛍光標識された末端を含むPCR産物を検出する。
c) 電気泳動によって得られるエレクトロフェログラムの各ピークの面積によって組成比を算出できる。またピークの位置をもとに、微生物群集の構成種を属レベルで推定できるが種レベルまでは推定できない。
(2)変化比の算出
被験物質投与前、0日目(群分けから3日目)と、投与7日目のT-RFLP解析の結果、得られたエレクトロフェログラムによって推定された腸内細菌の分類群及びピーク面積を表2に示す。また、本試験では下記の計算式で得られる数値を「変化比」と定義する。各腸内細菌の分類群において得られた変化比を図2に示す。
◎変化比の計算:(表2の7日目のピーク面積比)÷(表2の3日目のピーク面積比)
【例】 Bacteroides (光合成細菌RAP99 10mg/kg投与群)の場合⇒5.1÷3.2≒1.59 変化比は1.59
表2. 投与日0日目(群分けから3日目)及び投与7日目のT-RFLP解析:ピーク面積(%)
1~7は群番号を示す。
図2-1. 0~1weekまでの糞中の推定Bifidobacterium菌群の変化比
図2-2. 0~1weekまでの糞中の推定Lactobacillales目菌群の変化比
図2-3. 0~1weekまでの推定されるBacteroides菌群の変化比
図2-4. 0~1weekまでの推定されるPrevotella菌群の変化比
図2-5. 0~1weekまでの推定されるClostridium cluster IV菌群の変化比
図2-6. 0~1weekまでの推定されるClostridium subcluster XIVa菌群の変化比
図2-7. 0~1weekまでの推定されるClostridium cluster XI菌群の変化比
図2-8. 0~1weekまでの推定されるClostridium cluster XVIII菌群の変化比
図2-9. 0~1weekまでの推定されるothers菌群の変化比
(3)出現率の算出
投与8日目から最終日まで、各マウスから糞を毎日回収し、2匹分をプールして各群n=3でT-RFLP解析を行なった。その結果、得られたエレクトロフェログラムによって推定された腸内細菌の分類群及びピーク面積を表3に示す。また、本試験では下記の数値を「出現率」と定義し、各腸内細菌の分類群において得られた出現率を図3に示す。
◎出現率:mean(平均値)のピーク面積値(%)を出現率とする。
【例】 Bacteroides (光合成細菌RAP99 10mg/kg投与群)の場合⇒出現率は1.6
表3. 投与8日目から最終日までの糞のT-RFLPフローラ解析:ピーク面積(%)
図3-1. 投与8日目から最終日までの糞中の推定Bifidobacterium菌群の出現率
図3-2. 投与8日目から最終日までの糞中の推定Lactobacillales目群の出現率
図3-3. 投与8日目から最終日までの糞中の推定Bacteroides菌群の出現率
図3-4. 投与8日目から最終日までの糞中の推定Prevotella菌群の出現率
図3-5. 投与8日目から最終日までの糞中の推定Clostridium cluster IV群の出現率
図3-6. 投与8日目から最終日までの糞中の推定Clostridium cluster XIVa群の出現率
図3-7. 投与8日目から最終日までの糞中の推定Clostridium cluster XI群の出現率
図3-8. 投与8日目から最終日までの糞中の推定Clostridium cluster XVⅢ群の出現率
図3-9. 投与8日目から最終日までの糞中の推定others菌群の出現率
考察
最近の研究において、ヒトで肥満時はバクテロイデスに属する菌の構成比率が低く、Firmicutesに属する菌の比率が高い状態になっていること1)や、多発性硬化症において、患者の腸内細菌のClostridia XIVaとIV Clustersの割合が減っていること2)などが報告されており、腸内細菌叢と健康の関連性の注目度が上昇している。
この度の試験では、光合成細菌RAP99菌体をマウスに経口投与して、腸内細菌叢に変化が認められるかについて知見を得る目的で、糞中の腸内細菌叢についてのT-RFLP解析を実施した。
その結果、T-RFLP解析では、各腸内細菌群の割合が対照群と比べ光合成細菌RAP99を菌体を経口投与することで有意な差が認められたことより、腸内細菌叢に変化がおよぶことが示された。
Atarashi Kらの報告3)によると、Treg細胞の分化・増殖促進に働くClostridium cluster IV、XIVa、XVIIIが、光合成細菌RAP99菌体の経口投与によって組成が増大していることが指摘できる。これにより、経口投与された光合成細菌RAP99菌体が、結果としてTreg細胞の分化・増殖促進に働き、免疫寛容を発現する可能性があることが推測できる。
今後の課題として、詳細な腸内細菌叢の構成比の変化を、次世代シーケンサーを用いてより詳細に捉える必要がある。前述のようにT-RFLP解析では、細菌の属レベルまでしか解析できない。また、その変化の様子は比率でしか捉えることができないので、各細菌の絶対的な数の変化が不明である。これらの難点は、次世代シーケンサーによるDNA解析及び定量PCR法の組合せで解消できる。
【参考文献】
1) Ley R.E. et al., Microbial ecology: human gut microbes associated with obesity, Nature, 2006 Dec 21;444(7122):p.1022-p.1023.
2) Miyake S et al., Dysbiosis in the Gut Microbiota of Patients with Multiple Sclerosis, with a Striking Depletion of Species Belonging to Clostridia XIVa and IV Clusters, PLoS One. 2015 Sep 14;10(9):e0137429.
3) Atarashi K et al., Treg induction by a rationally selected mixture of Clostridia strains from the human microbiota, Nature. 2013 Aug 8;500(7461):p.232-p.236.
【試験責任者:自然免疫応用技研株式会社】